ジャン・ルノワールエッセイ集成
香港のザ・ペニンシュラのロビーだった。
私は午後のお茶を待ちながら、行き交う人々を眺めていた。
香港人の女性に近寄り、笑顔ですっと肩を抱いた白人の男性がいた。待ち合わせらしい。肩を抱いた仕草のさりげなさに、この人はフランス人だろうと思った。聞こえて来た会話は、やはり francais だった。
印象派の大家を父に持つ映画監督は、エッセイの中でこんなエピソードを披露している。ハリウッドで活躍していた有能な撮影技師がフランスで戻って来た理由は「女性の相手をした時のアングロ=サクソン人の態度は”まっとうじゃない”から」。それを「立派な理由だ」とうれしげに書くジャン・ルノワールもまさにフランス人なのだ。
彼らにとって、女性は単なる性欲の捌け口ではなく、人生の喜びの一部なのだ。それは女性にとっても幸せな事だと思う。甘い言葉も態度も現実にはお目にかかる事が稀な日本人の私は特にそう思う。
彼の映画にあふれる光の正体は、きっとそんな所にある。
人への愛がある。生きる事への賛美がある。
仕事としてシニカルに語られる映画に関してだが、そこには謙遜を感じる。そして言葉で言わずとも「スクリーンで充分語っているじゃないか」という自負も感じられるのだ。偉大な父の影に隠れる事無く、彼自身も映画史に光り輝く存在なのだと、あらためて感じ入った本だった。
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